


AIには書けない一文字を。



WEB展覧会
関係する書道団体の展覧会情報と作品展示のコーナーです
お楽しみください

会期:2026年5月12日(火)~5月17日(日)
10:00~17:00 ※入場無料
会場:名古屋栄サンシティギャラリー(中区役所ビル1階)
Youtubeで紹介(前編)
Youtubeで紹介(後編)
風岡五城 観月小集
詩聖和会水 遣将日落遠山 夜気出井故 去宮迎層月 深风満虚殿 千度変
大意)詩の聖なる響きは水面に和し、日は遠い山の端へと沈みゆく
夜の気配が井戸の底から立ちのぼり、宮殿は層をなす月を迎え入れる
深い風が虚ろな殿に満ちわたり、幾度となく姿を変えてゆく
月を観る集いの夜の情景を、静かに、そして雅やかに詠んだ詩です。
構成の妙として、飛翔する鳥と葦の中に佇む水鳥が描かれ、その余白に詩が流れるように綴られています。絵と文字が競い合うことなく、互いを引き立て合っている。これは高い芸術的境地がなければできない技です。
筆致は行草体の流麗な線で、速度と緩急の変化が豊かです。強い線と細い線が交互に現れ、まるで月夜の風がそのまま筆に宿ったかのような動きがございます。
特に見事なのは、詩の内容 月・水・風・鳥と、描かれた絵の世界が完全に一致していることです。
五城先生は詩を書かれたのではなく、月夜そのものを紙の上に召喚されたと申せましょう。

山本晴城 蒼翠

蒼翠(そうすい)とは、
-
蒼(そう):青々とした、深く澄んだ青・青緑の色。天の色、海の色
-
翠(すい):翡翠(かわせみ)の羽の色、鮮やかな緑。生命感あふれる輝き
すなわち「蒼翠」とは、青と緑が重なり合う、深く豊かな自然の色彩
山々に茂る木々の緑、あるいは清澄な空の青が大地を染める様子を表す
古来の漢詩にも多く登場し、自然の壮大さや、心が洗われるような清々しさを詠む際に用いられる格調ある言葉です。
蒼翠の二文字から放たれる力強さと伸びやかさは十分に伝わってまいります。
蒼の字 上部の草冠から下へと流れる線に、天から降り注ぐ清らかな気配が感じられます。太い線と細い線が巧みに交差し、空気の流れそのものが筆先に宿ったかのようです。
翠の字 複雑な字形を大胆にかつ豊かに表現されており、生き生きとした躍動感があります。「翠」という字が本来持つ「翡翠の輝き」が、墨の濃淡の中に見事に宿っております。
二文字全体として、山から清風が吹き降ろすような爽快感があり、見る者の心を自然の懐へといざなう作品です。
羽根田菖橋 藴

藴(つもる)
-
藴(つもる):積もる・蓄える・内に秘める・深く包み込む
表面には現れず、内側にひっそりと積み重なっていくもの
経験、感情、記憶、思い、そして人生そのもの。「藴」とはそのような見えない豊かさを表す言葉
中国の古典に「藴藉(うんしゃ)」という言葉があり、含みがあって奥深い、上品でゆかしい様子を表します。まさに書道そのものの精神に通じる言葉と申せましょう。
この作品、一目見た瞬間に息をのむ美しさがございます。
まず装丁の卓越さ、鮮やかな黄色の料紙(色紙)に、白雲のような柔らかな模様が広がる裂地(きれじ)の台に据えられています。墨の深い黒、紙の燃えるような黄、そして裂地の静かな灰緑のこの三色の対比が、見る者の目を一瞬で捉えます。
筆致について
草書体の大胆な一文字が、黄の紙面をほぼ埋め尽くすように書かれています。上部の細く鋭い線から、下部へと向かうにつれてどっしりと重なり合う線へ、まるで長い年月をかけて何かが静かに積もってゆく様子が、筆の動きそのもので表現されています。
特に見事なのは余白の使い方
文字が大きいにもかかわらず、紙面に窮屈さがなく、むしろゆったりとした「間(ま)」が感じられます。「つもる」という言葉が持つ、静けさと深さが見事に体現されています。
左下の朱の印章が、黄と黒の世界に一点の生命の火を灯しているようで、作品全体を引き締めております。
「藴とは、見えぬところに積もる宝。菖橋先生の筆は、その静かな豊かさをこの一字に余すところなく宿らせております」
木村大澤 李嶠詩
別業臨青甸(べつぎょう せいでんにのぞみ)
鳴鑾降紫霄(めいらん しじょうよりくだる)
長筵鵷鷺集(ちょうえん えんろあつまり)
仙管鳳凰調(せんかん ほうおうととのう)
樹接南山近(じゅは なんざんにせっしてちかく)
煙含北渚遥(けむりは ほくしょをふくみてはるかなり)
承恩咸已醉(おんをうけてみなすでによい)
戀賞未還鑣(しょうをこいてまだかえらず)
大意:郊外の離宮(別業)に鈴を鳴らして皇帝の車駕が到着する。長い宴席には高官たちがずらりと並び、笙や管弦の音が鳳凰の鳴き声のように調えられている。庭の木々の向こうには南山が間近に迫り、靄の彼方には北の渚が遥かに広がる——恩寵にあずかった一同はすでに酔い、この眺めを名残惜しんで、まだ帰りの馬に鞭を打とうとしない。これは皇帝の行幸(離宮への外出)に随行した廷臣が、その場で詠んだ「応制詩(おうせいし)」と呼ばれる宮廷詩の典型です。李嶠は杜審言・崔融・蘇味道とともに「文章四友」と称され、則天武后・中宗の二代にわたって宰相を務めた人物。華麗で格調高い五言詩を得意とし、晩年は「文章宿老」と仰がれました。
宴席の華やかさと山水の広がりを対句で美しく描き出す、典雅で気品ある内容で書かれている書体は行草書(行書と草書が入り混じった書きぶり)で、五言律詩八句を六行に収めた構成です。画像から読み取れる特徴は次の通りです。
-
筆致の緩急:「別」「馨」「集」「遙」「戀」「鑣」など、太く力強い線と、細く鋭い線とが一行の中に混在し、リズムの起伏が豊かです。単調にならず、詩の情景の高揚(宴の華やかさ)と静けさ(遠い山水)が筆の強弱にも呼応しているように感じられます。
-
潤渇のコントラスト:墨継ぎの直後の潤いのある太画と、墨が枯れてかすれる渇筆が対比的に配置されており、視覚的な立体感・スピード感を生んでいます。
-
連綿(れんめん):草書特有の続け書きが随所に見られ、一字ごとの独立性よりも行全体の「気脈」の流れを重視した構成です。
-
章法(全体構成):六行の行間が均等でありながら、一行内の字の大小・傾きに変化をつけているため、単調な羅列にならず動きのある紙面になっています。
-
落款・印章:本文とは対照的に細く端正な楷行の落款「李嶠詩 大澤書」と、朱文の印二顆が左下にバランスよく配置され、全体を引き締めています。
総じて、宮廷詩らしい典雅な内容を、勢いと抑揚のある行草で表現した、力量の感じられる作品だと思います。


























